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お誕生日に欲しいもの。

本、って言われた。

「欲しい本があるんだけど、いいかな」

「いいよ、どんなの?」

ちょっとロマンチックじゃないな、って思ったけど
大石がこれが欲しい!って言うのはすごく珍しいから。


「探すの大変かもしれない」

「いいよ、俺、探してくるから、絶対」

「あのね…」


大石の指定はすごく曖昧だった。
小さい頃に見た写真集。
海の写真と少しの文章。
見開きの左側が写真で右に2,3行の言葉。
大きさはこのくらいかな。


「うーん、難しいね、日本の写真?」
「出版社は日本だろうけど、写真は多分日本の海じゃないと思う」


10年前くらいだよ。
だからもう絶版になってるかも知れない。


海ってどんな感じ?
静かな海?
弾けてる海?


静かな海。
おっきい海。
すごくキレイなんだよ。


そう言ってにっこり笑う。





俺は次の日から本屋巡りを始めた。
普通の本屋から古本屋まで駆けずり回った。


これだよ、英二。
よく見つけたね。
嬉しいよ、ありがとう。


そう言って笑う彼の顔が見たかったから。




「海、好きなの?」

何軒まわったんだろう、誕生日も近くなった頃、
小さな本屋の店主が声をかけてきた。

「ううん、俺じゃなくて、友達が」

「探してる本があるのかい?」

「うん、でもね、わかんないんだ、本の名前も何も」

俺は本屋のおじさんに話した。
探してる本のこと。

「これじゃないのかい?」

「違う」

「どうしてわかるの」

「だって…」

「君の今の話に一致してるよ?大きさも、出版時期も、形式も」

「だって、それ、すごく大石らしくないもん」

「君のお友達は大石くんって言うのか」

「うん、大石秀一郎。誕生日なんだ、そろそろ」

「その子はどんな子なの」

「あのね、大石はね…」

俺はそのおじさんに大石のことを話した。


曰く、大石はすごく穏やかなこと。
曰く、大石はすごく優しいこと。
曰く、大石はすごく冷静沈着であること。
曰く、曰く、曰く。


おじさんはうんうん、と肯いて聞いていた。

そして、俺が言葉を切ったところで、
「それで、君はその大石くんが大好きなんだね」
と笑った。

「うん、そうだよ。俺、大石が大好き」

「じゃあちょっと待っておいで」

おじさんは奥に下がって、戻って来た時には手に一冊の本を手にしていた。

「少し君の言うのより小さいけれど、これなんてどうかな」

俺はその本を開いた。

ぺら、ぺら、と数ページめくって、俺はわかった。

「これだよ、きっとこれだ」

「うん、小さい頃に見たから、きっともっと大きく感じたんだろうね」

「おじさん、どうして分かったの」

「きっとそうだと思ったから」


君の話してくれた大石くんにぴったりだから
それにね
君が大石くんが好きなように
大石くんも君が好きだろうから
君みたいな海が大石くんも好きだろうと思って
君にもぴったりの海
君みたいな海の色


「俺、こんな?」

「うん、君はきっと大きな子だから。
気持ちの大きな子だと思うな」


その本は売り物じゃないんだとそのおじさんは言った。

自分が好きで買った本なんだけれども
もう僕は沢山見たし、沢山楽しんだから
こんな古いのでよければ君にあげるよ、と。





「ああ、これだよ、英二、これ」

大石は包みを開けて嬉しそうに笑う。

「思ったよりも小さいんだな。もっと大きいかと思ってたのに」

「大石はきっとまだ小さかったから、大きく感じたんだと思うな」

おじさんの受け売りだけどね。

「よく見つけたな、英二、すごいな」

「一目見て分かったよ、絶対これだって」

「すごく嬉しい」

大石は本当に嬉しそうに笑う。

「本が手に入ったことも。
英二がこれを見て、すぐに分かったことも。


それに、これを一緒に見られることも」


よいしょ、っと床に座って、手招きをする。

俺はその股の間に座って、一緒に本を開く。



うん、これ。この海の色。
この感じ。
わかる、英二?
この感じ。
空の青と海の青。
英二の色。

いつか行きたいな、ここ。
一緒に行きたい。

英二がさ、疲れてるでしょ、って俺を胸に抱いてくれる時
いつもこの景色が頭に浮かんでた。

いつもこの海があった。

だから一緒に行きたい。
いつかね、大人になったら。
きっと一緒に行こう。

大人になったら一緒に行こう。
それまでこれを見ていよう。



俺は大石の脚の間で、大石の胸に寄りかかって写真を眺めた。


目の覚めるようなブルー。
うっとりするような優しいブルー。


ブルーブルー。






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