男子更衣室



「俺、ふと思ったんスけど」
と、桃城青年は、禁句とも言える、積年(別に何年も考えていたわけではないが)の疑問を、
口にしてしまったのだ。

ある日の練習後、部室で着替えていた時のことだった。
手塚と大石はユニフォーム姿のまま職員室の打ち合わせに行ってしまい、
残された部員はダラダラ着替えをしていた。

「んー、なにー?」
菊丸青年はシャツをまくりあげ、下敷きでぱたぱた扇ぎながら返事をする。

「エージ先輩と大石先輩って…」
「コイビトだよーん!」
嬉々として菊丸は先を制して言う。
言いたくて仕方ないから。
「はぁ、そりゃわかってるんですけどね…」

「ヤってるんスよね?」
おずおずと聞く。
そこはまだ中学2年生である。
1年違うだけとは言え、経験済みの中学3年生、菊丸英二は胸を張ってVサインを
ビシッとつきだして堂々と答える。
「そりゃもう。がんがん」

「ってことはですよ」
いよいよこっそり桃城青年は言う。
ちょっと赤面しつつ。
「大石先輩はエージ先輩の裸で、タつってことですよね?」
「んー、そうだねー」
桃城青年は菊丸青年の身体を指差して、
「これで、ですよね?」
ともう一度確認する。
「そっだよ」
何が言いたいんだって顔で菊丸青年は肯く。

「ってことは、ですよ」
「にゃーに?」

「も…もしかして大石先輩って…」
「なんだよ」

桃城武、一世一代の勇気を振り絞る。
「男の裸に欲情するってことは、俺たちの着替えとか見て、ボ…」

「わああああっ!!」
横で聞いてたカチローが大声を上げる。
「そんなわけないじゃないですか、大石先輩に限って!!」

「そ、そーですよ!!なんてこと言うんですか、桃ちゃん先輩!」
ついでカツオも悲鳴に近い叫び声をあげる。
何しろ彼は大石に憧れているから、必死だ。

「そーだ、桃!なんてこと言うんだ!」
上半身裸で短パン姿の菊丸青年が仁王立ちをして、腰に手をあてて叫ぶ。
「大石は俺のカラダが好きなんで、お前なんかじゃボッキしねーぞ!」

「じゃあ聞きますけどね」
桃城青年は、こうなったらちゃんと聞いておこうと決心し、菊丸ににじりよる。
「大石先輩は、エージ先輩のどこに欲情してるんですかね?」
にゅふ、と菊丸の口元がほころぶ。
自慢の時がやってきたようだ。

「あのねー、おーいしは、俺の肌が綺麗だねって言ってくれるにゃ〜」
桃城をはじめとするテニス部員たちは、いっせいに菊丸の肌を見て、自分を見る。
別にそんなに大差ない気がする。
みんな普通の男子中学生だ。

「それからねー、俺の肩のラインも綺麗だねって言ってくれるにゃん」
またもや一斉に菊丸の肩を見て、自分の肩を見る。
これまた大差ないような気がする。

「それからね〜、あ、ちょっとコレはハズカシいけど、乳首もちっちゃくて
可愛いって言ってくれるにゃん」
またもや(以下略)

「それからねぇ(以下略)」
またもや(以下略)

(とにかく長いので中略)

要するに、テニス部員は気付いてしまったのだ。
菊丸青年と自分たちとは、大して何も変わらない男子中学生だということに。

「だからね、お前らじゃダメなんだな!おーいしは俺のカラダじゃないと
ボッキしないのにゃん」
菊丸が長々と続いた自慢のあと、高らかに宣言した時には、既にそんなことは
誰も聞いていなかった。

しーんと静まり返った部室に、さっさと着替え終わって詰襟をきちんと上まで
閉めた不二が、ロッカーを閉める音が響く。
「案外さ」
くす、と悪魔の微笑み。
「大石、僕たちのこと、ズリネタにしてたりしてね」

さーっと全員が青ざめたその時、部室のドアが開く。


「なんだ、みんなまだ着替え終わってなかったのか」


飛び交うラケット。
倒れるロッカー。
男子更衣室とも思えぬ黄色い悲鳴。
「イヤー!チカーン!」
「うわぁ〜!おかーちゃーん!!」
「出てけ、えっちー!!」
「助けて、おまわりさーん!!」
「このウワキモノー!!」(菊丸)
前をタオルで押さえて逃げ惑う者あり、ものを投げつける者あり。

それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

最も憐れむべきは、大石の横から部室に入ってきた途端、学生カバンを
顔面に受けて倒れ伏した手塚。






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