タトゥーってよくない、とテレビを見ていた時に、何の気なしに口に出した。

「タトゥーって、刺青のことか」
彼はすっとぼけた顔で尋ねる。
「イレズミって言うなよー」
手近にあったクッションをそのボケた面に投げつける。
「そういうヤクザな呼称じゃなくて、タトゥーって言うの」
「同じことだろ」
「違うの、ファッション的に」

「よくわかんないけど」
あぐらをかいて、今しがた顔面に押し付けられたクッションを抱える。
前髪をかきあげて後ろに撫で付けるけれど、幾筋かが顔にまたかかる。
「とにかくそのイレズミがいいのか」

俺は最早その語彙を訂正するのも馬鹿馬鹿しいので、話を先に進めた。
「いれてみたくない?カッコいいじゃん」
「背中に昇り龍とかか?やめとけよ」
「お前はどうしてそういう任侠もの的発想をするの!」
抱えたクッションを奪って、また顔にぶち当ててやる。

「他にどういうのがあるんだ」
「だからさ、この辺とかに、秀一郎、って飾り文字で彫ったりするわけ」
「誰が」
「俺が」
「お前は秀一郎じゃなくて英二だろう」

ここに至ると、もうこの男に何を話しても無駄だと感じ始めた。
俺はもうテキトーにあしらう気まんまんになって、テレビの方に向き直りつつ、
投げ捨てるように話し続けた。
「自分の名前彫ってどうするんだよ、名札じゃあるまいし」
「人の名前だって彫っても仕方がないだろう」
大石もこの話は適当に流すことに決めたらしい。
またクッションを抱え込んでテレビの方に向き直る。
しっかりクッションを抱えているのは、恐らくもう顔にぶち当てられたくないからだろう。
そんなことをしても、背後にはまだいくつも小さなクッションがあるのに。

「だからさ、アレでしょ。自分は大石のものだよ、って、自己満足」

俺はテレビを見たままだったけれど、横目に入った大石の顔がこちらを向き、
それから俺の頭を抱え込んで自分の肩に引き寄せた。

「そっか」

彼の声は優しい。

「そっか」

そうして俺は目を閉じる。



それから数日後、彼の肩に鮮やかなブルーの紋章を見た。

「どうしたの、それ」
「入れてもらった」

大石は胸に勲章をつけて故郷に生還した戦士のような、
はにかんだ笑顔を俺に向ける。
俺は、そっと指を肩に伸ばして、そのブルーのラインをなぞる。
「これ」
「そうだよ、英二のeだよ」

俺は裸の彼の肩に口付けををする。
嬉しい気持ちと、悲しい気持ちとがないまぜになって、
俺はもう何も他には出来やしないと知る。

「大石、俺を好きなの」
「好きだよ、大好きだ」

彼の肩に当たる俺の唇は彼の熱を奪い取る。

「俺、どうしたらいいのかわかんない」
「何故」

彼の肩に甘噛みをする。
彼の肩に唇を吸い付かせる。
そして、少し濡れた肩を、またブルーのラインの通りに撫でる。

「どうして、大石」
「好きなんだよ、英二。お前の印が欲しかった」

手のひらで、それを覆い隠す。

「英二、どうした」
下を向いてしまった俺の両頬を、温かい掌で包む。
きっと分かってしまっただろう、俺の頬が濡れていること。

「いやだったか、こういうの」
「そうじゃないよ、そうじゃない」

「英二」
彼はいつでも優しい。

俺たちは裸になって抱き合う。
大石は俺の身体を愛してくれる。
大石は、いつでも優しい。

俺は彼が俺の身体中を愛撫する間も、彼の肩を愛撫する。
口が届く時にはキスして、手が届く時には撫でさする。


胸がジンジンする。
そして嬉しい。
そして悲しい。

「大石、俺も彫るよ」
「英二はだめだよ」
「どうして」
「誰かに見られたら嫌だよ」

彼は俺の裸の足にキスをする。
内腿を吸うように。

「誰かがそれを見て、淫らな想像をするかと思うと、気が狂いそうになる」

内腿の皮膚は柔らかく、彼の唇も柔らかく
彼と俺との距離は途端に縮まる。

「見えないところにならいいの」
「それなら・・・そうだね、それならいいよ」

「どこに彫って欲しい」
「内腿に」
唾液で濡れた俺の内腿を撫でる。

「ここに彫るの」
「そう、ここ」


だけれど、本当には彼は許していない
俺には分かる

俺の股間に身を埋めた彼の肩口に見える
くっきりとしたブルー
悲しいブルー
憂鬱なブルー




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