彼の聡明そうな額が好きだ
つるつるでまっすぐの額が好きだ
彼の全てはこの額にかかっていると言ってもいい

少なくとも俺はそう思う

実際、風呂からあがってきた彼の姿は牢獄に閉じ込めておきたくなる
前髪がおりて額が隠れているためだと俺は思う

一気に品のない顔になるから不思議だ

「お先」
腰にタオルを巻きつけて出てくる

たいてい、ちゃんと身体を拭けていないので歩いたところは
ナメクジが這ったあとのように濡れている

「ちゃんと拭きなよ」
自分ではちゃんと拭いているつもりだから始末におえない
仕方なしにもう一枚タオルを持って来て拭いてやる

「お前が今から使うやつだろ、それ」
くすぐったそうに身を捩る

「髪拭くから座って」
ソファに座らせてゴシゴシとタオルで擦るように拭く

「乱暴だな、はげちゃうよ」
笑いながらなされるがままになる

「ほい、これで大丈夫かな」
タオルを頭から外す時にはいつでも緊張する

するっとタオルが頭を滑って、顔があらわになる
品のない顔
知性の感じられない顔

俺は急いで手櫛で彼の黒髪を後ろに撫で付ける

「乾かないから、おろしておいてくれよ」
「だめ」

「なんで」
「お前だって普段は髪が乱れるの嫌がるだろ」

風が吹くと髪を押さえる
少し乱れると、すぐに櫛で梳く
かっちり固めたその髪は
ヅラ疑惑まで巻き起こったことがあるほど

「そりゃちゃんとしたい時はな。でも今はいいだろ」
「俺の前ではちゃんと出来ないの」
「そういうことじゃない」
「じゃあちゃんとしてて」

吐き捨てるように言うと、俺はタオルをひっつかんで風呂場に向かう


どうしてこういう配色になるのか教えて欲しい
濃い紅色のバスタブ
薄い水色のタイル
何を思ってこういう色にしたのだろう

ドギツイのに貧乏くさい
派手だけどイモくさい
全然クールじゃない
全くスマートじゃない


俺は風呂場のドアを開けて叫ぶ
「おーいし!」

「どうした」
その姿

綺麗な動物だと思う
博物館に格納しておきたいと思う

博物館の倉庫で永遠に眠っていて欲しいと思う

「洗ってよ」
「何を」
「俺」

スケベイスを熱い湯で流してから俺を座らせる
「髪も洗うか」
「うん」

前触れもなくシャワーで頭のてっぺんから湯をかけられる
それからシャンプーをつけてごしごし擦る
痛いくらいに

「痛いだろう」
優しげな声でえげつない一言
「もしかしてわざと?」
「さっきのお返し」
ささやかな復讐をするあたり、子供じみている

振り向こうとすると、また前触れもなくシャワーをかけられる
しかも顔面に

笑う彼

それでも身体を洗う仕草はとても優しい
大事に洗う

「大石、やさしーのね」
「ああ、アライグマみたいな気分だよ」

だけど、洗ってもらうのは気持ちがいい
丁寧に優しく洗ってくれる

首筋から二の腕に、それから手首に向かって、指の間まで
お腹から股へ、足をつたって、指の間まで

「きもちいー」
「そっか」

泡だらけになったところで、シャワーを渡される

「湯船の用意するから、自分で流せよ」
「お湯はるの」
「ああ、少し寒い」

軽く中を洗ってからお湯をはる
その姿を見ながら俺は身体から泡を流す

「一緒に入る?」
「入る」

嫌な色のバスタブだ
濃い紅色
紅というよりは、赤紫
赤キャベツ
ところどころを補修して塗られた白いゴム
下品であからさまなバスタブ
派手で淫らがましいバスタブ

彼が先に入って手招きをする
「ちょっと熱いぞ」

嫌な顔の男だと思う

実際額以外は恐ろしく下品な作りをしている
大きくて垂れた瞳が最たるものだけれど
口元の薄情そうなシワといい、
まっすぐで細い鼻梁といい、
少しこけた頬といい、
嫌味な顔をした男だと思う

「どうした」
俺は中に入らずに、彼の前髪に手を伸ばす
その前髪をおろす
彼はいつでも俺のなされるがままだけれど、苦笑する

「前髪おろすのは嫌いなんじゃなかったのか」
「今はこれがお似合いだよ」

「何だよ、ジロジロ見て」
「お前、オンナだったらよかったのに」

こんな女がいたら嫌だろうけど
男を食い潰す女だっただろうと思う
男を絡めとって、絞り取って、そうして捨てる女

「いや、やっぱ男で」
「何言ってるんだよ、さっぱりわからない」
「いーよ、わかんなくて」

その内気付く
というよりも、今でも気付いているだろうけれど
その内に、うまく使うようになるんだろう
この淫らがましい顔つき
この淫らがましい身体つき

俺は、彼にうまく使われて食いつぶされる第一号だ


「ふうん、にゃるほどね」
「だから何だ」
「俺ってお前の遍歴の1ページ目なんだなあって」
「わけわかんない」
「いーよ、まだわかんなくて」

色んな思いを振り払うように勢いよく風呂に入る

股の間に滑り込んで、膝でタマを踏んで殴られた




>>Junkie-Junk
>>submission top