オープンカフェで人を待っていた。
正確に言うと、俺のテニスのパートナーで、セックスのパートナーである男を待っていた。

「遅いな」
中学生がこんな瀟洒なカフェに一人でいることの気恥ずかしさを隠すように俺は時計を見て呟く。
誰が聴いているわけでもないその声は、空しくソーサーの上をくるりと滑り、そして空へ溶け込む。

いい天気だ。

秋の空は変わりやすいけれど、今日は一日中晴れると天気予報が伝えていた。
その予報は今のところ外れる気配を見せない。
少しの裏切りを期待しながら、俺は目の前のコーヒーに目を落とす。

店にあとどのくらいいればいいのだろう。
喉が渇きを感じて、コーヒーの横に置かれた水を手にする。
コーヒーがなくなっても座り続けている度胸は、俺にはなかった。

「遅いな、英二」
もう一度声にする。
もう少しだけ大きな声で口にしても、それは相変わらず空しかった。

大人になれば、こういうカフェに一人でいても気後れしなくなるのだろうか。
大人になれば、カフェで空のコーヒーカップを目の前にしても、座り続けて新聞を読めるのだろうか。
例えばあのサラリーマンのように。

俺は横の席に座っているサラリーマン風の男に横目を配る。

さきほどからその男のコーヒーカップは空になったままだ。
セルフサービスのこの店は、空になっても誰か注文をとりに来るでもなく、
またここは店の外に出された円形の小さなテーブル席だったから、
店の者に飲み物がなくなったことを気取られることもない。
その男は、ずっとそこに座って、難しい顔で新聞をゆっくり読んでいた。

30前だろうか、そこそこ若い。
所帯じみた風ではないが、落ち着いている雰囲気。
白い額に、軽く落ちた黒髪、神経質そうな銀縁の眼鏡。
白いワイシャツ、紺色のスーツ。
怜悧そうな尖った鼻が、少し光っていることに、妙な安堵感を覚える。
冷たいハンサムというやつだろう。

いつの間にか、俺はその男をじっと見つめていた。

一体こういう男はどんなセックスをするのだろうかと思った。

他人のセックスについては、一応俺も男だから、アダルトビデオを見たことくらいはある。
ただ、あれは健常な性欲を持っている男の為に作られたものだから、基本的には女を映している。
男はただの媒体に過ぎない。
男の具体的な描写は少ない。
背中しか映っていなかったり、肩しか映っていなかったり、ぼかしの入った下半身だけだったり、
とにかく細かい映像は省かれている。
それは当たり前のことだ。
あんなものはオナニーがしたい男の為のものだから、例えば画面に男の喘いでいる顔や、
男だけの画面が長々と続いたら、勃ったものも萎えてしまう。
普通はそういうものだろう。

だから、俺はセックスをする男の様子をつぶさに観察したことがない。
英二が俺を抱くときにも、それほどまじまじと彼を見たことはない。
男に組み敷かれている自分に羞恥するので精一杯であることは否めない。

「大石、俺の顔見てよ」
英二は前から俺を犯すときには必ずそう要求する。
「ねぇ、俺だよ、大石。お前を抱いてるのは俺だよ」
だけれど、そんなのは見れたものじゃない。
何故ならば、英二はずっと俺の顔を見ているからだ。
俺が見返せば、目があってしまう。
そんなことに俺は耐えられない。

セックスしている時、俺はいつでも英二の視線を感じている。
見られているところが熱くなる。
それが結合部だったり、俺のペニスだったりすると、俺は震える。
羞恥に震えるけれど、そういう時に限って俺の身体は俺を置いて宙に浮かんでしまう。
早い話が、俺はあっさり英二に導かれて達してしまうということだ。


あの男はどんな顔をして、どんな様子で女を抱くのだろうかと、俺は彼を眺めた。
あの男も言うのだろうか。
「俺の顔を見て」と。

正常位の似合う顔立ちだ。
彼はきっと静かに相手の股に分け入るだろう。
きっと彼はおごそかにことを取り運ぶだろう。

ペニスは結構大きいだろうと思う。
まっすぐで、茎に青筋のたった、黒ずんでいるけれども清潔感のある形。
カリは張っているだろうか。

陰毛は薄いのではないかと思う。
ワイシャツの袖から覗く腕、新聞を持っている指、あごにうっすら生えた髭、髪の質。
俺はそれらを一つ一つ見て、彼の体毛は薄いだろうと判断する。
あの組んだ脚のズボンの裾から脛が見えればいいのにと願う。

脚が長い。
立ったまま後ろからつながる時には、彼はとても苦労するだろう。
膝を曲げて、相手の肉壁に自分を押し込んでいくに違いない。
だから、彼にはきっと正常位がいい。
あの指を相手の膝の裏に食い込ませて、脚を高々と持ち上げて、セックスをするのが似合う。

ゴムを付けるのはいつか。
きっと彼は、相手の股の間に膝をつき、武士が切腹するような姿でゴムをつけるだろう。

セックスの途中でキスはするのだろうか。
相手の性器に口をつけるのだろうか。
乳首を口に含む時には何か前置きをするのだろうか。
彼は多少なりとも相手に自分が快楽のさなかにいることを示すだろうか。

そして、彼はどんな顔で射精するのだろうか。
相手の中で果てるだろうか。
それともゴムを乱暴に引き剥がして、相手の身体にかけるだろうか。


俺は何故か、自分の腹に指を滑らせる。


相手の腹にかける。
その精液は、腹の皮膚を伝って、臍にたまる。

きっと彼は自分の体液を舐める。
それをすくうのは中指だ。
臍の中でしばし泳がせてから、存分に精液の絡んだ自分の中指を口に含む。
あの薄い唇で、指をしゃぶる。



突然、目の前が真っ青になる。

「おい」
聞きなれた声が同時に頭上から聞こえる。

「何見てんだよ、おーいし」

「ああ、英二。遅かったな」
俺はその顔を見上げて、笑う。

「そんなこと聞いてない」
英二は恐ろしく不機嫌な顔をして俺を見下ろしていた。
「何見てるんだって聞いてるの」

「別に。暇だったから色々と」
彼の30分以上の遅刻を皮肉るつもりで言ったけれど、全く通じなかった模様だ。

「あの男のこと誘ってるのかよ」
後ろを見ずに、親指でくっと後ろのサラリーマン風の男を指し示す。
「何言ってるんだよ、英二」
「やらしい目でジロジロ眺めてさ、やらしい顔して」
「してないよ」
「してる」

英二はとても怒っていた。
顔を真っ赤にさせて、仁王立ちして俺を見下ろしていた。
俺は、淫らな想像をしていたわりに、彼に責められても案外平気で、彼を見返した。

「ああ、そういう顔もしてるかもな」

英二は更に赤くなった。
走ってきたのだろう、もとから赤かった頬を、更に赤らめた。
「ああいうのがタイプなの」
「いや、別に。興味があっただけ」
「やっぱりタイプなんじゃない」
「そういうんじゃなくてさ」

「行こうよ」
「どこに。約束してた映画はもう始まっちゃってるぞ」

英二の遅刻のおかげで、映画の上映開始時間は既に過ぎていた。
次の回までには3時間近くある。

「いいから行くの」

俺の手をわしづかみにして、彼はカフェから俺を連れ出した。
俺は振り返って、サラリーマン風の男を見た。


英二のあまりの剣幕のせいか、彼はこちらを見ていた。
目を上げると、また印象が少し違って、柔和な印象が増した。
頭のよさそうな、ハンサムな男。
その男と俺とは、目を合わせる。


一瞬だけれど、彼は淫らな顔をしたように見えた。

俺の股間は痺れた。



彼も勃起していたらいいのに、と願った。




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