BOWELS


ね、すっごいの不二にビデオとって貰ったから、一緒に見ようよ。
面白そうに君が言う。

「すごいのって何?」
「んー、何かね、ケーブルでやってたドキュメンタリー番組」
「へぇ?英二がそういうの見たいなんて珍しいね」
「すっごいんだって」
「何が」
「人の死ぬところとかバンバン写してる映像、まるまる2時間! すごくない?」
「悪趣味じゃない、それ?」
「見てみたくないの?」
「うーん…」

そんな生々しいのは嫌だな、って思う。
正直言って、俺はあんまりそういうのが好きではない。
血を見るのも好きじゃないし、ニュース番組で見る事故現場の映像も目を背けてしまう。
人の腕がありえない方向に曲がっているのとか
タンカで運ばれている人にかけられたシーツが、血で染まっているのとか
そういうのは見たくない。

それでも、俺のコイビトは、目をくるくるさせて、好奇心の固まりになってる。
残虐なところもあるんだな、って今更ながら驚く。

「ね、大石んちで一緒に見ようよ。俺、一人じゃ怖いし」

怖いの?でも見たいの?
おかしな奴だね、君って。




「うわ、見て見て」
嬌声をあげる君。

せっかく意識をそらしているのに、君が俺をこちらに呼び戻す。

「すっげー! ね、マネキンみたいだね、あの首。 ぶらぶらしてて」
TV画面ではスキーヤーがフェンスに激突して、そのまま命を落としている。
一瞬でヒトがモノになる。
その恐怖。

「英二、まだ見る?」
「何言っちゃってんの。まだ始まったところじゃん」

パン、って軽々しい音。
ドラマなんかで聴く「バン」って音じゃないんだよ?
パン、とかポン、とかそういう音がしただけなのに
人が後頭部から血を吹き出して倒れるんだ。

「うわうわ、ね、あそこに転がってるの、人の首だよね?」
楽しそうな君。
俺にしがみついて、とても楽しそう。

吐き気がしてきた。
番組は進むにつれて、過激な映像をタレ流す。
喉がぐうっと音をたてる。

「もうダメ。ごめん」
言おうとしたけど、声にならなかった。
喉の奥からカエルが潰れたみたいな「ぐぅ」って音。
身をよじって、君を膝から振り落とすのが精一杯だった。

「おーいし?」
びっくりした声をあげる君に背を向け、俺は吐いた。
トイレに走る余裕もなかった。

びたびたという音
鼻を突く臭気
俺は吐いた
気持ち悪くて、内臓がムカムカして
どうしようもなくて

「おーいし」
俺の背中をさする君。
そしてとんでもないことを言い出す。
「ね、触ってみてよ。俺、もうガチガチ」

「…えいじ?」
俺はもどした後の息の荒さをそのままに、呟く。
「コーフンしちゃったみたい。 ねぇ、触って」
英二の股間は見るからに張り詰めていた。
俺はズボンの上から英二のペニスを撫でる。
鼻をつく、俺の嘔吐物の臭い。
英二のペニスはガチガチになっていた。

俺は呆然としつつも、英二の股間をズボンの上からまさぐり続けた。
英二は腰を浮かすと、自分のズボンのボタンを外し、チャックを下ろした。
「しゃぶってよ、その口で」

もどかしい。
張り詰めたペニスは、ズボンから出てきてくれない。
俺は開いたチャックから顎をくぐらせて、トランクスの上から英二のペニスを咥える。

「ね、おいしい?」
「ん…」
俺もいつの間にか勃起していた。
英二のペニスを唇で愛撫しながら、自分をズボンの上から揉む。

テレビ画面ではまだグロテスクな映像が垂れ流されて、
床には俺の嘔吐物が異臭を放っていて
そして俺たちは勃起している。

俺のよだれで濡れたトランクスの隙間から舌をねじ込む。
英二の肌が舌に当たる。
毛を舌で掻き分けて、その向こうにあるペニスに舌をのばす。

「えーじ」
俺はもうたまらなくなったんだと思う。
「お願い、咥えさせて」
そう言いながら、自分の股間を揉みしだく。

「淫乱大石」
口も犯して欲しいの?
って君は笑う。

そうして俺は犬のように待つ。
君がズボンを脱ぐのをお預けくった犬のように待つ。

「口あけてよ」
英二は床に尻をついて座った俺の前に膝で立つ。
英二のペニスがお腹につきそうなくらい勃起している。
裏の青筋が浮き出している。
俺は口を大きく開ける。

英二は俺の頭をつかむと、口腔の奥までペニスをねじこむ。
「んんっ…」
刺激臭の中で喉の奥を刺激されて、俺は嘔吐感をおぼえる。
喉の奥がぐえ、って音をたてる。
「気持ち悪い?」
ペニスを俺の喉の奥につきたてて、英二が腰で円を描く。
俺の喉の奥をほじくりまわす。
「でも許してやんない。吐くなら吐いてもいいよ」
英二のペニスが一段と大きくなる。
唇にあたる、鼻先をくすぐる英二の陰毛。
喉につきたてられるペニス。
異様に熱気のこもった部屋に充満する異臭。

俺は二度目の嘔吐をした。

英二のペニスを咥えたまま、口の端から俺の胃液が噴出す。

「あーあ。俺、ゲロまみれになっちゃったじゃん」
それでも英二は俺の口からペニスを引き出そうとはしない。
俺の胃液にまみれた陰毛もそのままに、いよいよ奥まで差し入れる。
「ぐうう…っ…」

そして、俺は自分の股間をまさぐる手を止めることが出来ない。



「テレビ、ちゃんと見て」
英二は俺の顔をテレビに向けて、よつんばいにさせる。
「ほら、すっごいよ」
俺の顎をつかんで、テレビを無理矢理に見せる。
胃からあがるすっぱいもの。

「見て、内臓飛び出てる。
あいつ、びっくりして自分の腸つかんじゃってるよ。」

すっぱり切れた腹部からにゅるにゅる出ている血まみれの内臓。
まだ生きてるその人は、自分の腹部から流れ出る内臓を、
何とか身体の中にしまいこもうと半狂乱になっている。

「大石の腸も、あんなんだよ」
よつんばいになった俺の腰を抱え込んで、英二が後ろから挿入してくる。
「俺のちんちんが入ってくとこ、あんなんだよ」

にゅるにゅるしてる。
つかもうとしても、手から滑って逃げる腸。
激昂して泣き喚く男。
その力で、腸は更に身体の外にこぼれ出る。

「あ…」
「目そらしちゃだめ。ちゃんと見てよ、大石」
「だめ、気持ち悪い・・・」
「じゃあ吐いていいからさ」
「あ…はぁ…え…じ…だめ…」
「なにが」
「そんなの…あ…ああっ」

英二の腰の動きに合わせて、ひくひく律動する自分の身体を止められない。

「大石の腸、すっげキモチイイ」
「あ…あああ…」
「ほら、あんななのにさ」

テレビの画面では戦争の場面。
千切れた人の身体。
もうただの物体。
だけど
そのちぎれたところから垂れ下がっているその粘膜じみた、ぬらぬら光る内臓が
それが人であったことを唯一物語る。

はぁはぁ荒い息をつきながら英二が呟く。
「大石の内臓ひきずり出して、ちんちんに巻きつけたい」
俺の尻に腰を打ちつけながら囁く。
そして手をまわして俺の胃をわしづかみにする。
爪が食い込む。

俺の内臓に英二が食い込んでる。
ペニスも。指も。

俺はまた吐いた。
自分の嘔吐物が床からはねて、顔に当たる。
びちびちと音がする。

「大石、きったねーの」
英二は俺の腰を抱え込んで、俺の腸を抉る。
「あぅうう…ああ…」
俺は漏れ出る声を抑えられない。

画面から垂れ流される人の壊れてゆくさま。
人がただの物体に変化するさま。
おびただしい血と
生々しい肉。

俺は腕で自分の震える身体を支えきれなくなった。
がくがくと肘が震える。
はじめて知る快感。

俺は自分の肉体を感じた。
英二も俺の肉体を感じてた。

英二のペニスが大きく膨らむ。
俺の内臓を押し広げる。

「大石の内臓、俺のちんちん咥え込んで悦んでるよ」

その一言で、俺は堕ちた。
肘が言うことをきかなくなって崩れ落ちる身体。
自分の嘔吐物に顔を浸して、俺はもがく。
だけど、どうしようもない。
くる。
すごいのがくる。
おおきいのが。

「あぅあ…ああああ…」
喉から糸のように声がずるずる出てくる。
そのまま胃がつられて出てくるような錯覚に襲われる。

「イイよ、ヒダが吸いついてくる」
「あっあああ…ああああ!!」
声に続けてまた嘔吐する。
床に片頬をこすりつけたまま、口の端から胃液をたれ流す。
鼻をつく異臭。
テレビから聞こえる銃声と悲鳴。
冷たい頬。
ゴボゴボと音をたてる喉。
ぐちゃぐちゃと英二を飲みこむアナルの音。
ひきつれる胃の痛み。
つきあげる快感。

「あああっ…!英二、英二!!」
「おおいしぃっ!!」
俺の肉の奥に差し込まれた英二のペニスが固くなり、
俺は最後の嗚咽と共に嘔吐し、同時に射精した。




英二は飛び散った俺の嘔吐物を手で一箇所に集めていく。
「そんなの触ったら汚いよ」
「大石のじゃん。全然何ともない」
そしていたずらに笑う。
「証拠に、飲んでみせようか?」
「やめろよ」

テレビは最後の映像。

肉塊と化した身内、おそらくは子供か、夫か、もう元がどんな姿であったのかわからない、
ただの肉片を抱きしめている老婆。

「愛してたのかな」
俺の言葉に反応して、英二はこちらを睨みつける。
「違うよ」
激しい口調でたたきつけるように言う。
「違う。愛してたんじゃない。愛してるんだ」
俺の嘔吐物に手を浸して、英二は冷たく燃える眼差しを画面に向ける。
「俺も絶対ああするよ」
俺の嘔吐物を手でまさぐって、熱っぽい声を出す。

「大石の肉片かきあつめて、全部抱きしめて愛してあげる」

そうして俺を振り仰ぎ、俺の肉片とセックスするのだと言って笑った。