|
THOSE DAYS/ supercollider _ shuichiro
「貴方はこういうことがお好みなのか」 挑発するように、その青年は話しかける。 ラブホテルのソファに片膝を立てながら。 お前、ではなく、貴方、と投げやりな口調で人を呼称する青年だ。 「ああ」という返事に、「だったら女装の男を買えばよかったじゃないか」と返す。 安物のソファに開かれる彼の股間。 女性用の下着には納まりきらない男性器が、はしたなくこぼれ出ている。 「俺に女装の趣味はないよ」 立ち上げた膝の裏側から腕を通し、彼は自分の男性器を掬い上げる。 「そうだろうな」という相槌に、かすかに微笑む。 その美しい男のペニスは萎えたままだ。 美しい男を買った。 男性のままの男を買った。 そして女装をさせた。 もちろん、自参した女性用の服装を。 裾の広がった肩も顕わな肉感的な女性に似合いそうな深紅のワンピースだ。 彼のお坊ちゃん然とした顔立ちに、それは想像以上に似合わなかった。 ましてやそれに合わせた同色の女性用下着など。 自分以外の者が見れば爆笑が湧き起こりそうなほどに滑稽ですらあった。 「女装した男なら、俺のいた通りの2つ北側に大勢いただろう」 彼は、やはり萎えたまま女性用の小さな下着からだらしなくこぼれ出たペニスを、持ち上げては興味を失ったかのように落とす。 下着の真っ赤な横紐は彼の飛び出た腰骨に否応なく食い込んでいるに違いない。 しかしそれはここから見えはしない。 「俺は上背がある分、身体がごつい」 彼の言う通りだ。 彼はとても背が高い。 ソファにだらしなく座った今では確かめようもないが、恐らく180cmはあった。 そしてそれだけ背の高い男は、たとえ細く見えてたとしても、比例的に全てのサイズが大きい。 それを知っていながら、敢えて、彼を買った。 「そろそろ気が済んだか」 彼は微笑む。 そうではないことを知りながら。 「いい加減にこれを脱ぎたい。俺の信条に反する」 ソファの背もたれに乗せた側の腕をだるそうに動かし、赤い肩紐をぴたと鳴らせる。 「もう少し」と答え、ペニスをまさぐる。 彼の萎えたペニスとはうらはらに、自分のペニスには血管が浮き出ており、びくびくと前後に波打っている。 彼はそれを冷ややかに眺め、自分の股間にそのまま視線を落とす。 「俺に信条なんて大層なものがあればの話だ」 美しい黒髪の男だ。 この「美しい」は、黒髪にも、更には彼にもかかる修飾だ。 「俺のものが勃てばもっと早くに終わるのか、この退屈な戯言は」 初めて興味を示したように彼は自分のペニスを指ではなく掌に乗せる。 そうして、長い指でそれを包み隠してしまう。 「俺が勃起すればいいのか」 もう一度、彼は問う。 彼の長い指が、それぞれに独立した動きをもって蠢きかける。 しかし応えはない。 彼は柔く握られた己のペニスから手を離す。 それは、尻の撓みから盛り上がる赤い裾に、もう一度、ぽとりと着地した。 頭だけが、彼の指の思惑を残し最後の抵抗を見せていたが、やがてはそれも去った。 「なあ、勘弁してくれないか」 彼は黒い髪を掻き上げ、緑がかった黒い瞳を侮蔑的に投げかける。 「俺には女装の趣味はないんだ。女になりたいとも、特段思わない」 「大体、どうしてこんなものを着せておきながら化粧をしろと要求しないんだろうな」 問いかけるでもなく、ぼうっと天井を仰ぎ見ながら彼は呟く。 その呟き、その呼吸から、彼が重度の喫煙者であることが分かる。 「まあ俺にしても、化粧をしたいってことはないけれども」 粘り気のある液体が、あたかもそれ自体が臆病な意志を持つように震え、ペニスの先に膨らみを増していく。 「恐らくそれは」 そう答える。 堅く張ったペニスを撓めながら。 「そう、それは歪みを愛しているからだろう」 「歪み」 それなら分かる、と言いたげに彼はその単語を反復する。 「歪みか」 「意図せぬ形に歪められる、その姿をこそ」 ペニスは蠕動を繰り返す。 「わたしは愛している」 「それで貴方は満足なのか」 わたし、と言い、貴方、と返す。 その呼応までもが完璧に美しい。 「そうだ」 「それならいい」 彼は思いの外、濃密に生い茂る腋毛も顕わに、背もたれの武骨なカーブに沿って大きく身を反らせる。 今や、彼とわたしとは共闘していた。 くそ、と大石は呟く。 あれで終わりかと思ったら、やっぱりケツには突っ込むんだな、当たり前か。 それでもキスだけは上手かった。 それに、きみ、と俺を呼んだ。 きみは素晴らしい、そう言って俺の唇を筋に沿って舐め上げた。 あれは、とても、よかった 唇が淫らに音を象る。 縁石を足の脇でこつんと蹴ると、靴が少しだけ、内側へずれた。 踏み込む度に居心地の悪さがじわじわと喉元へと這い上がってくるが、大石はそれを直さない。 アパートの前で、彼は思い返したように、を手の甲で拭ってから、11段の階段をひとつひとつ、 数えるように昇って行く。 |