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CRUROPHILIA
練習後の部室で下らない会話が交わされるのはいつものこと。 「いや、絶対お尻だろ」 「お前頭おかしいって。絶対胸だよ」 女の身体はどこが大事かについて、今日は熱い議論が交わされている。 「じゃあ多数決とるか?」 「おー、いいぜ。絶対負けねー」 思春期真っ只中にありがちな会話をしているのは2年の桃城と荒井。 さっそく二人はあちこち聞いてまわる。 「女といえばお尻と胸、どっちですかね?」 「うーん…どっちも捨て難いよなぁ…」 「あ、海堂、逃げるなよ!お前も答えてけって」 「興味ねーっての」 「うそつけ!お前ムッツリかよ!」 大騒ぎしているところに、部長と副部長が戻ってくる。 「何の騒ぎだ」 部長が冷たい目で見回す。 「いや…ちょっとアンケートを…」 桃城が首をすくめる。 手塚にこんな質問をしたらどんな顔をするのだろうと思いながら。 「あ、大石先輩はどう思います?」 とりあえず危険区域を避け、隣の柔和な副部長に声をかける。 「ん、何が?」 ふんわり笑う。 「女の身体で大事なところって言えばお尻か胸か、どっちでしょうかね?」 質問を横で聞いていた手塚が眉をひそめる。 「うーん、お尻か胸かねぇ…」 生真面目な副部長は、後輩からの質問にまともに答えるべく、真剣に考える。 「あ、大石先輩はお尻ですよね?」 お尻派である桃城は嬉しそうに言う。 「なんで?」 「だってエージ先輩は胸つるんつるんじゃないですか!」 勝ち誇ったように桃城は胸を張る。 「あー…確かに…」 部室中の全員が何となく肯く。 「ああ、そうだな、確かに」 くす、と大石は笑う。 「でも胸も捨て難いよな?男のロマンだし」 さらりと言い置いて、大石は自分のロッカーに向かう。 「オトナだ…な」 「ああ、オトナだ」 桃城と荒井は呟き合う。 胸のお尻のと騒いでも、所詮二人ともそのものに触ったこともない、嬉し恥ずかし チェリーボーイなのだ。 いつもの帰り道、俺は大石の腕にぶら下がって顔を覗き込む。 「ね、さっきの話さ」 「ん?」 「胸かお尻かっての。桃が言ってたじゃん」 「ああ、あれね。面白かった」 くすくす大石は笑う。 「大石はホントのところ、どうなの」 ふ、と冷たい目をする。 時々こういう顔をする。 俺だけにしか見せないけど、こういう顔。 「英二」 俺の頬に手を添えて、目を覗き込む。 優しい仕草だけど、目が優しくない。 すごく冷たい。 「知ってるだろ?俺の好きなもの」 「うん…」 俺は知ってる。 大石の好きなもの。 「スネ毛ってどうなんだろーなー」 「どうって何だよ」 「昨今の若人は処理するらしいじゃんか」 「何だよ、その若人ってよ」 今日も桃城と荒井は練習後の部室で思春期な会話を交わしている。 「やっぱ毛深いのってイヤがられんのかな」 どうなんですかね、って横にいる不二に話をふる。 「どうなのかなぁ。僕の姉さんなんかは胸毛がたまらない、とか言ってるけどね」 「そりゃ〜…マッチョ好きすぎますねぇ」 「うん、確かにちょっと参考にならない極めた意見かもね」 くすくす笑って、あ、そう言えば、と俺のほうを向く。 「英二は足、何かしてるでしょ?」 「えー!何やってるんスか、エージ先輩!!」 ったく…コイツってばホント目ざとい。 俺は心の中で舌打ちしつつも、努めて何気なく答える。 「うん、ちょっとね」 「脱色してるよね」 「うん、ねーちゃんがやってたから、面白そうだなって」 「見せて見せて、どんな感じ?」 「俺も見たいッス!」 仕方ないから、俺は短パンのまま机に腰掛けて足を投げ出す。 「毛が金髪っすよ!」 「だから脱色してるって言ってるじゃん」 「すげー。キラキラしてますよ!」 「英二、肌も綺麗だよねぇ」 「あー…風呂上がりとか寝る前にクリーム塗ってるから」 「へぇ〜。マメっすねぇ」 こういう時に限って、こういうところを見られたくない奴が部室に入ってくる。 「何やってるんだ?」 静かな声。 だけど、明らかに怒ってる。 俺にはわかる。 「あ、大石先輩」 恐竜並みの鈍感である桃は、振り返って平気で喋る。 「エージ先輩の足が金髪っすよ!!」 「ああ、それがどうかしたのか」 口元はいつもみたいに笑ってるけど、明らかに声が笑ってない。 俺はぞくっとして背中が震えた。 「も…もういいだろ、桃」 俺はテーブルから飛び降りる。 「ちょっと面白そうだからやってみただけだよ」 俺は大石をまともに見られない。 怖い。 「帰るか、英二」 「うん…」 全員帰って、部室に二人きりになったところで、大石がやっと俺に声をかけてくる。 「あのね、おーいし、さっきの…」 「もういい」 そう言って口元に笑みを浮かべて、椅子に座った俺に歩み寄ってくる。 俺はもう何も言えなくなる。 椅子の前に膝をついて、俺の制服のズボンの裾を膝までまくりあげる。 「英二、これは誰の?」 手を俺のふくらはぎに滑らせる。 俺は必死で声を絞り出す。 「お…おーいしの…」 「そうだよな?」 かぷ、とふくらはぎに甘噛みする。 「おーいし・・・」 俺は震える。 大石は俺の足をぷちゅ、と大きく舐めて、口を離す。 そして俺の目を見て言う。 「他の誰にも触らせるな」 「はい…」 俺のコイビトは足フェチです。 「見て、英二、あの人」 振り返った先には、キレイな足のキレイなおねーさん。 「是非一口、って感じだな」 大石はにやにや笑って言う。 「ウワキモノ」 「見てるだけじゃん。それに、何てったって英二の足が一番だって」 優しく言う。 そういうのも怖い。 俺はモノ扱いされてる気がする。 「俺の足がこういうんじゃなくなったらどうする?」 ある日、俺はおそるおそる訊ねた。 「どういう風になるの」 「すごく太くなるとか、モジャモジャになるとか…さ」 彼は笑う。 「冗談やめろよ」 俺はそれ以上何も言えなくなった。 俺が好き? 俺の足が好き? 俺はそんな下らないことすら聞けない。 怖い。 「この前すりむいたところ、カサブタになってる」 俺の膝小僧をさすって大石は言う。 「うん、だいぶ硬くなってきた」 「自然にとれるまで触っちゃダメだよ」 「わかってるってば、痕が残るからでしょ」 「うん」 彼は優しくカサブタにキスを落とす。 早く治りますように、って。 「傷のある足ってやだ?」 俺はちょっとビクビクしながら訊ねる。 「いや、たまにはいいよ」 彼は笑う。 「こういうのもそそられるね」 この怪我をした時、俺はわけもわからず、泣いてしまった。 「どうしたの、英二」 俺は何も言葉にできなかった。 ただひたすら膝を抱えてしゃくり上げていた。 「そんなに痛いの?」 不二が俺の横に来て、背中をさすってくれる。 だけど、俺はとにかく泣いた。 どうしていいのか分からなくて、泣いていた。 「どうした、怪我したのか」 膝を抱えて俯いた俺の頭上から声が聞こえた。 「うん、すごく痛いみたいで…」 不二がほっとした声を出す。 俺の保護者が来たと思って安心したんだろう。 でも、今の俺にとっては一番ここにいてほしくない人間だった。 「転んだのか?」 「見事にね」 頭上の声を聴きながら、俺は顔を上げられないでいた。 怒られる。 嫌われる。 どうしよう。 「英二」 大石の手が背中に触れる。 「どうした、痛いか」 うなだれたまま首を横に振る。 「見せてみ」 大石は俺の手をどけて、膝を覗き込む。 「ああ、痛そうだな」 優しい声。 怒ってない?大石、怒らない? 「血が沢山出たからビックリしたんだな、きっと」 大石は不二に笑いかけて、俺をお姫様抱っこする。 「手当てしてくるよ」 「うん、頼むね」 不二はにこにこ笑ってる。 「ほら、血は止まったから、泣くのやめて」 コート脇で手当てを終えた大石は俺の頭をぽんぽん、と叩いて優しい声を出す。 「どうした、血にびっくりしちゃったか?」 「お…いし、怒ってない?」 「何を?」 「あし…」 「なんだ、そんなこと気にしてるのか」 笑って頭を撫でる。 「痛くて泣いてたんじゃないのか」 「だって…」 「馬鹿だな、英二」 周りを見回して、見てる人がいないのを確認して、彼は俺の髪にキスを落とす。 セックスに関しては俺の恋人はすごく淡白だと思う。 ぎし、ぎし、とベッドがなる。 「あっ、おーいし・・・」 俺は大石に貫かれて、悶える。 「おーいし、俺、もう・・・」 「おいで、英二」 大石の腰の動きが早くなる。 「ほら、おいで。イイんでしょ」 俺は悲鳴に近い喘ぎ声を漏らす。 「おーいし!おおいしぃっ!!」 そして暗転。 次に目を開けた時には、俺はベッドに寝転んで、シーツと恋人の腕にくるまれている。 「あ・・・おれ・・・」 「うん、気を失っちゃったみたいだな」 俺の恋人は、髪に鼻をもぐりこませてキスをしてくれる。 優しい俺のカレシ。 「ん・・・大石・・・」 俺はベッドの中でもがく。 「動かなくていいよ、英二。どうしたいんだ?」 俺はコイビトの胸にすがりつく。 「大石、ちゃんとイった?」 「俺はいいよ」 ゴミ箱には使用後のゴム。 中には何も入ってない。 「どーして。やだやだ」 「いいって」 そしてコイビトは俺の頬にキスをする。 「英二がキモチイイ顔するのを見られたから、俺はもう満足」 「どーして。俺、一緒に気持ちよくなりたいよ」 「俺もちゃんと気持ちいいよ」 「だって出してないじゃん」 「いいんだってば」 彼はとても淡白だと思う。 セックスの途中も冷静な顔を崩さない。 俺が乱れているのを見て、ちょっと薄ら笑うことはあるけど。 それでも自分は決して乱れない。 自分がイく時にも静かに、おごそかにイく。 だけど、俺のコイビトは足フェチだ。 足に関しては、キチガイみたいになる。 俺のコイビトは変態だ。 「今日は足触ってもいい?」 ちゃんと聞く。 セックスの度に触るわけではない。 時々聞く。 だから俺は答える。 「いいよ」 俺をベッドに腰掛けさせて、大石は足元に跪く。 「英二の足、最高だよな」 口元が緩んでる。 こんなだらしない顔、他では絶対に見せたことがない。 それから俺の足を舐めまわす。 太腿も、スネも、ふくらはぎも、足首も、足の指だって。 何度も頬擦りする。 ため息を漏らす。 そして、彼は勃起する。 「えーじ、たまんない」 彼は喘ぐ。 「すっごいイイ」 何時間でも舐めては撫で回す。 俺は彼がかけてくれた毛布を肩からかけて、じっと彼の顔を見ている。 恍惚とした彼の顔。 口から漏れるため息、喘ぎ声。 そういうのをぼんやりと見ている。 そして、彼は俺の足の間にペニスを挟みこんで、あっという間に達する。 彼の乱れる姿はこういう時でしか見られないから、俺もそんなに悪い気分ではないけど。 だけど、ある日のこと、彼はお願いがある、と俺に言った。 「これ履いて、俺の好きにさせてくれる?」 手にしていたのはシームの入った黒いストッキング。 これには少々驚いたけれど、俺は肯いた。 下着はつけないで、と言うので、裸のままでストッキングを履く。 何だか恥ずかしいので、後ろを向いて履く。 履き終わるや否や、彼は俺を後ろから羽交い絞めにして押し倒してきた。 「英二、キレイ」 もう息があがってた。 押し付けられた股間で、彼がもう勃起しているのがわかった。 「エージ、エージ」 彼はうわごとのように呟いて、身体をずり下げて、俺の足に顔を押し付ける。 俺は床にうつ伏せになったまま、下半身を彼に蹂躙されている形になる。 「大石、ベッド行こう?」 でも俺のそんな声を大石はもう聴いてなかった。 シームにそって、大石は俺の足を舌で下から上になぞる。 「エージ」 「大石、ねぇ・・・」 「エージ、アイシテル」 大石は俺の足に自分の身体を擦り付ける。 頬、喉、胸、腰、足、全てを俺の足に擦り付けて悶える。 俺は大石の姿が何だかとても怖くなってきた。 大石が俺の足に見せる執着も。 大石が俺の顔をちっとも見ないで、足にばっかり視線を注ぐのも。 大石は俺じゃなくて、俺の足を愛してるだけなの? 「ね、大石、ちょっとやめて・・・」 俺は身をよじって彼の愛撫から逃れようとする。 「動くなよ、英二」 彼はその大きな手で俺の足首をつかむ。 その力があまりに強かったことが、俺の恐怖心を煽った。 「やだ、おーいし、やめて」 彼は力任せに足首をつかんで、俺の動きを封じる。 そうしながら、顔を俺の太腿に押し付けて喘いでいる。 「やだ・・・やだ、大石、ねぇ、やめてよ」 はぁ、はぁという大石の荒い息遣い。 恍惚とした表情。 足首に押し付けられる彼の勃起したペニス。 何もかもが怖かった。 俺は涙をこぼして身をよじった。 俺の身体が反転して、彼と向かい合う形になる。 「や・・・やだ・・・やだよ、おーいし!離して!!」 俺はじたばた足を動かし、必死で抵抗した。 大石は怖い顔をあげて、俺を押さえつける。 そして荒い息で低い声を出す。 「動くな」 「やだ!やだ!大石、やめてぇ!!」 俺は泣き叫んでいた。 俺のコイビトは変態だ。 俺のコイビトは異常性欲者だ。 怖い。 怖い。 助けて。 大石はものすごい力で俺の足を押さえつける。 俺は必死で自由な上半身をよじって、自由な手で彼の背中を拳骨でたたく。 「やめて!大石!もうやだ!こんなのやだ!!」 大石はそんな俺を尻目に乱暴にストッキングを太腿から引き裂く。 突然現れる白い足肌。 大石はそこにむしゃぶりつく。 はぁ、はぁって息遣い。 彼の口から漏れる喘ぎ声。 「英二、たまんない。すげーイイ」 「やめて!大石!!」 滅多に聴かれない彼の喘ぎ声。 「たまんない。もうオレ・・・」 「やだ!大石!やだぁっ!!」 大石は俺の名前を喘ぎ続けながら、俺の足をなでまわし、破れたストッキングから むき出しになった足肌に吸い付いて、触ってもいないペニスから精液を大量に どくどくと放出した。 俺のコイビトは変態だ。 俺のコイビトは異常性欲者だ。 だけど、俺は彼を愛しているから、今日も足の手入れをして寝る。 彼は俺をアイシテルの? 彼は俺の足をアイシテルの? いわれのない恐怖。 |