HAPPY NEW YEAR


「声、聞きたかった」
「俺もだよ」



2学期が終わると、大石は祖父母のいる東北に行った。
「電話するよ」
優しい目で俺の髪をくすぐって、彼は言う

「逃げようとは思ったんだけどさ。
祖父が病気だし、会えるのも最後になるかもしれないからって親が」

ねぇ、大石、他人事のように言うね

「ガンらしいんだけどね。
もう意識も混濁してるらしいんだ」

ねぇ、大石

「大石、おじいちゃんに可愛がってもらったことないの?」
「あるよ」

笑う

「俺は初孫だったからね」

ねぇ、大石

「悲しくないの?」
「悲しいよ」

笑う

君は笑う
ちっとも悲しくなさそうに

ねぇ、大石
他人事みたいだね

そうやって笑う君は
とってもステキだね


電話するよ
年があけたらね
一番に電話する
一番に英二の声を聞きたいから

く、と笑う

嘘みたいだ
君の言葉は嘘みたいだ

ひどく薄っぺらで
ひどく冷たい

優しい笑顔で嘘をつく

優しい嘘をつく

そうして彼は北へ向かった




除夜の鐘がなり響く中、俺は自分の部屋に入る

にーちゃんはカノジョと初詣

俺は一人になって、携帯を握り締めて待つ

0時になった途端、電話が震える

「英二?」
「うん、俺」

君の声が俺の今年最初の音
電話の音も切ってたんだから
電子音が最初の音にならないように

「英二、一人?」
「うん、大石は?」
「俺も一人」

「ねぇ、英二」
「うん」
「祖父が死んだ」

俺は何と言っていいのか分からなかった
こういう時、オトナなら何と言うんだろう

「英二?」
「あ、うん、聞いてる」

「英二」
「うん」
「俺、勃起した」
「え?」
「祖父がさ、最後にひゅう、って息を吸い込んでさ」
「うん」
「死んだんだよ、俺の目の前で」
「うん」
「それで、勃起した」

大石は囁く

「英二、抱きたい」

「英二が抱きたくなった」

「みんな泣いてた」

「俺はトイレに行ってオナニーしたよ」

「英二の身体を思い出してオナニーした」

ぐるぐるまわる大石の囁き声

「英二、抱きたい」

俺たちは電話を通じてセックスをしてる

ひどくいびつで
ひどく悲しい

「大石、抱いて」
「英二、アイシテル」

「オーイシ」
「エージ」

俺たちは互いの名を
濡れた唇で電話に向かって囁きあう

ため息と
うめくような声

アイシテル

それだけ

それだけで俺たちは
電話一本のセックスをする

「イく」
「俺も」


あけましておめでとう、っていう言葉も忘れてた