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「今日、大石んとこ行っていい?」
「うーん、散らかってるから、また今度な」
大石は俺を努めて避けているように見えた。
見えただけじゃなくて、明らかに避けていた。
「散らかってても構わないのに、俺」
「俺がかまうよ」

大石は笑うけど、もうホントには笑ってなかった。
ひきつったような笑いしか俺にはもう見せてくれなかった。
「おーいし、俺のこと、キライになっちゃった?」
「どうして」
「だってさ」
俺はこつん、と石を蹴飛ばす。

自分から言い出したことなのに、俺は続きを言いたくなかった。
言えば全部壊れてしまいそうな気がした。

「おーいし、ここんとこ、全然俺のことかまってくんないじゃん」
「こうして一緒に帰ってるじゃないか」
「でもそれだけじゃん」
実際、俺たちは一緒に帰っているだけだった。
どこかに寄って行くこともなく、学校から別れ道までをただ歩くだけだった。



俺はその頃には知らなかったことだけど、実際にその頃の大石の部屋は
惨澹たる有り様だったらしい。
あとで大石の母親から聞いたことだけど、水槽を全部割ってしまい、そのまま片づける
こともせず、部屋は異臭を放っていたし、服も何もぐちゃぐちゃになっていた。
どこから買ってきたのか鍵をとりつけてしまい、大石の母親も彼の許可なしには入れて
もらえなかったので、片づけられないまま放置されていたらしい。


「ちょっと時間がほしいんだ」
大石は下を向いていう。
その目はひどく冷たくて、生気がなくて、人形の目みたいだった。
「ごめん」
俺は、聞き分けのない子供みたいに大石にすがりついた。
「やだ」
「英二」
「やだやだやだ!大石と離れてるなんてやだ!」
俺は怖かったんだと思う。
大石が人間の目をしてないことも、
大石がどこか遠くに行ってしまうことも、
大石を失うことも。

だから大石の顔を見ないで、ひたすらしがみついて俺は叫んだ。
「やだよ、大石。俺を一人にしないでよ」
俺は彼の名前を叫びつづけた。
どこかわからないけど、大石が遠くにいってしまう予感がした。
そして、その予感は間違っていなかったのだ。


「どうして、英二?」
大石が泣いてた。
その手は俺を抱き返してくれるでもなく、自分の額を締め付けるように抱えてた。
「どうして」
崩れ落ちる身体。
糸の切れた操り人形みたいに。
「どうして、英二?」


夕焼けが大石を照らしてた。
夕焼けのせいならよかったのに。
夕焼けが悲しいだけならよかったのに。



泣きじゃくる大石を抱えるようにして自分の家に連れて帰った。
兄ちゃんを部屋から追い出して、俺は一晩中大石を抱きしめていた。
大石は一晩中泣いていたけど、明け方には少し寝息をたてていたようだ。
大石の寝息と、まだしゃくりあげる声を聞きながら俺も眠った。



昼過ぎに、大石が目を覚まして俺の髪にキスをしたので、俺も目を覚ました。
俺たちはお互いを求めたけど、大石は出来なかった。
それ以降、俺は大石に抱かれていない。
いまでも。