|
U ARE THE SEX MACHINE / RYOMA
思い出すのは大石の手。 大石の声。 肉に分け入られて苦しい息を出す自分の頬に優しく添えられた手。 「息すって、そう、それからゆっくり吐いて」 頬をさする手に呼応する優しい声。 「そう、ゆっくりでいい」 俺は貴方が好きでした。 自分に執着しているとは思っていなかった。 自分を好きでいてくれているとも思わなかった。 だけど、大事にされていると感じていた。 優しくされていることが嬉しかった。 忘れてたよ、貴方は誰にでも優しいってこと。 自分がその「誰にでも」の一人でしかなかったんだってこと。 だから自分はどうするんだろう? 「さよなら」と言った自分に 「ああ、さよなら」と彼は言った。 だけど、離れた瞬間から求めている自分にも気付いている。 自分はいずこへ流れ着こうとしているのだろうか。 初めて精通した日の朝。 股間の冷たさに目が覚めた。 びっくりしたが、これが世に言う夢精、というやつなのだろうと咄嗟に理解した。 自分の体験以上のことを耳で知っていたから。 それでも、中学1年生の身では曖昧な知識しかなく、 これから自分がどうなっていくのか不安になった。 不安な気持ちを抱えたまま、こっそり下着を洗った。 「おはよう、早いな」 朝練の前の部室にはいつでも必ずこの人がいる。 カギを開けてくれる人だから当り前のことなのだが、 今日はこの笑顔を見て、ほっとした。 「おはよーっす」 それでもいつものように無愛想に返事をして、着替えを始める。 副部長は既にジャージに着替えて、何やら紙をまとめて綴じたりしていた。 「何やってるんすか」 「昨日やっておかなきゃいけなかったんだけどさ」 と、プリントの束を振って笑う。 「今朝、クラスで配るプリントなんだ」 「昨日やれなかったんすか」 「うん、寝ちゃったんだよ」 「手伝いますよ」 椅子を大石の横にガタガタと持って来て、綴じ終わったプリントを 見ながら同じようにまとめていく。 「すまないな、俺の仕事なのに」 「いいっすよ、みんなまだ来ないし」 ふ、と目を細める大石。 この優しげな視線に、越前はいつもドキドキしていた。 まっすぐに人を見て絶対に視線を逸らさない大石は、越前にとって眩しい存在だった。 ちょっと斜にかまえたところのあるこの少年は、まっすぐで優しいこの先輩に、 かすかな畏敬の念を抱いていたのだ。 「すごい量」 「うん、配ったらみんな文句言うんだろうな、俺に」 「おかど違いっすよね、それ」 「まぁそんなもんだよ、人なんて」 くすくす笑って、表紙の太字を指でトントン、と叩く。 「しかも見て。提出期限、3日後なんだよ」 「3日でこれ、全部解くんすか」 「もう絶対批難の嵐だよな」 「大石先輩に?」 「先生もそれが目的なんでしょ」 自虐的にくすくす笑う。 嫌味なくらいの優等生であるのに、この先輩は不思議と人に憎まれない。 手塚はやっかみなども受けている様子だが、大石にはそういう声は聞かれない。 恐らく、この柔和な態度と笑顔ですべてを封じ込んできたのだろうと思う。 そして、この人はスキを見せないように、いつでも気を張ってきたに違いない。 「大石先輩、相談してもいいっすかね」 「うん、何だ?」 この人なら笑わないで聞いてくれるだろうと思った。 桃城は話しやすいのだが大笑いしそうだし、菊丸に至っては言いふらしかねない。 乾に話せば、あのノートに赤裸々な事実を書き込まれてしまうし、 河村はちゃんと聞いてはくれるだろうが、自分の体験などは話してくれそうにない。 不二や手塚には、こういう話を聞かせたいと思わなかった。 だけど、この人は、きっと真剣に聞いて、答えてくれるだろうと思った。 「今朝のことなんすけど」 「うん」 大石が優しい顔で肯いた瞬間、部室のドアが開いた。 「あー!おちび、何大石とヒソヒソ話してんのー!」 珍しく、菊丸が早い時間に部室にあらわれた。 「英二、早いじゃないか」 「だってさぁ…」 何か言いたげな顔で大石をちら、っと見る。 越前は、なんとなくこの黄金ペアの間には割り込めないという気がしていた。 菊丸がいるところでは、大石には話し掛けないようにしていた。 それが何故かはわからないけれど、それが彼の処世術だったのだろう。 「俺、ジュース買ってくるっす」 「あ、越前…」 「さっきのは、また今度」 「そうか?」 自分が部室から出る時に、菊丸の声が聞こえた。 「大石、昨日電話でなかったのなんでだよー」 「ごめん、寝ちゃってたんだよ。妙に眠くてさ」 やれやれ、まったくああいうワガママな人間とペアを組むのも大変だな、 と越前はため息をついて、部室をあとにした。 話の続きをする機会はなかなか訪れなかった。 大石はいつでも菊丸や手塚にまとわりつかれていたし、自分も早起きは 苦手だったし、帰りも桃城に自転車で送ってもらう魅力には勝てなかった。 だが、越前は毎日不安に過ごしていた。 あんなことが度々あったらどうしようかと思うと、夜もなかなか寝付けなかったのだ。 1週間もした頃、大石から声をかけてきた。 「越前、ちょっと今日残ってもらえるか」 「あ…はい」 「越前と何の話だ」 手塚が口をはさんでくる。 「うん、部の仕事なんだけど、越前が手伝ってくれるって言ってたなぁって」 大石はしれっと、そんな嘘をつく。 この人、嘘もつけるんだ、と越前は少なからずびっくりした。 「そうか、だが何も越前じゃなくても、俺も部長として…」 「手伝いながら覚えて貰うのも大事じゃないか」 「それはそうだが…」 手塚はしぶしぶながらも肯く。 「今日がダメならいつでもいいんだけど」 大石は自分の方を振り返って微笑む。 「あ、今日大丈夫っすよ」 「すまないな、頼むよ」 そうして、今度は菊丸をなだめに行く大石の後姿を、越前は眺めていた。 「すみません、俺の為っすよね」 「別に構わないよ」 みんなが帰った後の部室で、大石はブリック飲料のストローと苦戦しながら笑う。 意外にぶきっちょなところもあるんだな、と越前は面白そうに笑う。 「笑うなよ、ストローが出てこないんだから仕方ないだろう」 越前は大石の手からストローの袋を取ると、それをきゅ、と裂いて中身を取り出す。 「どうして俺がやるとビニールが伸びるだけなのに、越前だとすんなり破れるんだ?」 「コツがあるんすよ、こういうのは」 ありがとう、と笑ってストローを受取り、ぷつ、とブリックパックの片隅につきさす。 「ごめんな、時間取れなくて」 「俺こそすみません」 「で?もう解決したのか」 「いえ、全然」 「そんなことだろうと思った」 大石は笑う。 そうして、越前の目の下に親指を走らせる。 「ちょっとだけクマできてる」 「大石先輩」 「うん」 「初めて射精した時のこと、覚えてますか」 ぶ、と吹き出しそうになる大石。 「ご、ごめん、びっくりして。笑ったわけじゃないよ」 「わかってます」 この人は笑わない。 微笑みはするが、笑わない。 「えーっと…要するに」 大石は、コホン、と咳払いをして、越前に向き直る。 「越前は精通をしたと考えていいのかな」 「そうっす」 そっかそっか、と大石は目を細める。 オヤジくさいなぁ、と越前は思う。 「うん、自分の初めての時ね。覚えてるよ」 「どんな感じでした」 うーん、と空をあおぐ。 「おもらししたのかと思ったかなぁ」 「おもらし?おねしょじゃなくて?」 越前はうっかり声が大きくなった。 寝ている間ならまだしも、起きている時にも出てしまうことがあるのかと驚いたからだ。 そんなことになっては非常に困ってしまう。 今こうしている瞬間にも出てしまうのでは、と股間を思わず押さえた。 「ああ、大丈夫大丈夫。こういう時には出ないから」 大石は越前の様子を察して、両手を振る。 「じゃあどういう時に出ちゃうんすか」 「何が不安だ、越前?」 大石は越前の隣に腰掛ける。 「だって、わかんないんすよ」 ぽつぽつと越前は下を向いて話す。 どういう時に出てしまうのか。 どのくらいの頻度で出てしまうのか。 自分でコントロールは出来ないのか。 そもそも、出さないという選択肢はないのか。 そういう不安を一気に口にした。 不思議と、口にすることで、気持ちが少しずつ晴れていくような気がした。 大石は静かに越前の言葉を聞いていた。 そして、越前が言いたいことを言い終わり、口を閉ざしてからしばらく沈黙が流れた。 ちゅ、と大石がコーヒー牛乳を飲む音がする。 「越前、自分でしたことないか?」 「何を」 「うーん…自分でこう…いじるというか」 「ああ、オナニー」 大石は少しぎょっとした顔をした。 「あ、そう。それ。知ってるのか」 「詳しくはわかんないですけど、そういうことがあるってくらいは」 「うん、じゃあ、それをしてみたらどうだろう」 「するとどうなるんすか」 あのね、と大石はホワイトボードまで駆使して説明を始める。 とにかくあの白い液体はどんどん作られること。 作られるとタマに蓄積されていくこと。 蓄積がオーバーフローすると自然に出てしまうこと。 だからコントロールする為に、自分で定期的に出す必要があること。 「と、いうことで、自分でするといいよ」 明るく爽やかに、大石先生の性教育の講義は締めくくられた。 が、越前はまだ分からないことがあった。 「どうやって」 大石は困った顔で、手をひらひら動かしながら呟く。 「だから…こう…もんだり…」 「揉むんすか」 「こすったり…」 「こする…?」 「しごいたり…」 「しごくって何すか」 ああ、と大石は頭を抱えてしまった。 「すまない、越前。なんて説明したらいいのか…」 「俺の理解が足りないんすかね…」 「いや、そうじゃない。そうじゃないけど、どうやって説明したらいいのか…」 うーん、と顎に手をあてて空を睨む大石。 越前はその横で、ひたすら大石の顔を眺めて、次の言葉を待っている。 綺麗な顔してるよな、この人。 何となくそんな風に思った。 綺麗だけど、男っぽくて、優しそうで、だけど、少し冷たそう。 唇が薄いからそんな風に見えるのかしらん、などと。 「大石先輩はどうやって知ったんですか」 「何を」 「オナニーの方法」 その瞬間、大石の目がふっと暗くなった。 越前は初めて見る大石の表情にびくっと肩が震えた。 「俺のことはいいから」 大石は越前から目をそらさずにハッキリと、しかし少しきつい口調で吐き捨てるように言った。 大石には人に見せていない顔があることを瞬時に越前は理解した。 そして、その顔が見たいとも思った。 「これで練習してみたらどうかな」 大石はいつもの顔に戻って、笑顔でテニスラケットのグリップを越前に握らせる。 「こんなに太くないっす」 「そのうちなるよ、大丈夫」 と笑うその顔は、いつも見せている優しい笑顔だった。 「こうっすかね」 「うーん、そんなにこすると痛いと思うな」 「じゃあこう」 「それじゃ百万年かかるぞ」 「わかんないっす」 越前はちょっと甘えて、大石にぽん、とラケットを渡した。 「大石先輩、やってみてください」 「恥ずかしいなぁ」 「俺はやりましたよ」 って言うかさ、いつもやってることを人前でやるってのはさ。 越前はまだしてないから実感ないだろうけど、俺はね。 そう笑いながらも、この真面目な副部長はラケットを逆さに立てて、 面を足に挟んで、グリップを膝の間から上に突き出させる。 「こんな感じかな」 照れ笑いを浮かべた大石がグリップをこする。 越前よりも大きな手で、グリップをしごく。 「皮があるだろう、それをこう…こんな感じで動かすんだよ」 「はい」 「で、滑らすというか…そうだな、やっぱり扱く、って感じで」 「はい」 真剣な表情で大石の手つきをまじまじと見ていた越前は、股間にむず痒い感覚を覚えた。 「大石先輩」 「うん」 「これ、何か変なんだけど」 「うわ!」 大石はがばっと立ち上がった。 越前は勃起していた。 大石は少し躊躇したが、そうか、と手をぽん、と打ちあわせる。 「越前、折角たったんだから自分でしてごらん。俺、少し部室の外に出てるから」 「今ここでですか」 「そうそう。ティッシュ出しといてやるからな。多少こぼれても後で拭けばいいから」 いそいそとカバンからティッシュを出して、越前の横に置く。 カーテンを閉め、電気をつける。 「外にいるから、終わったら呼んでくれればいいからさ」 そうして、少し楽しそうに部室の外に出ていってしまった。 どこかで見たと思ったが、あれは遠足の朝、弁当を作る母親のようだと越前は感じた。 一人残された部室で、越前は自分のペニスをごそごそ取り出す。 これを、ああしてこうするんだよな。 さっきの大石の手つきを真似して、こすりあげる。 「あ…」 変な気持ち。 おしっこがしたい時のような感覚。 さっきの大石の手つきを思い出した。 大石もいつもこんな風にこすっているのだろうか。 一体彼は誰を思ってオナニーするのだろうか。 越前は、大石先輩の手を思ってペニスをしごいていた。 「あ」 声が漏れた。 息があがる。 そうして、乾いた唇が、彼の名を呼んだ。 「大石先輩…」 「どうした、越前!」 ドアの外にいた大石が勢いよく入ってくる。 「あ…」 「あ…」 二人は一瞬かたまった。 勃起したペニスを握った越前と、片手にブリックパックのコーヒー牛乳を持った大石。 「ご、ごめん!呼ばれたと思ったから!ごめん!」 大石はバタン、とドアを閉めた。 はぁ、と越前はため息をついた。 そして、ペニス先を何となくティッシュで拭いて、ぎゅ、とまだ勃起している ペニスをズボンに押し込んで、ドアに向かう。 「大石先輩、もういいっすよ」 そろっとドアが開く。 大石の柔和な顔が覗く。 「終わったか?」 「終わってないけど、いいっす」 「駄目じゃないか、ちゃんとしないと」 「いいんですってば、もう」 大石は部室に入ると、越前の股間に目をやる。 「まだたってるじゃないか」 「だって…」 「悪かったよ、途中で入って来て」 はぁ、とため息をつく。 「途中で中断されて、やる気が削がれたのは分かるけど、ちゃんと 出しておかないと今晩にもまた夢精するかも知れないぞ?」 「今晩っすか」 「うん、だから頑張れ」 大石は越前の肩に手を置き、力強く励ました。 「最初だから時間もかかるかもしれないけど、萎えるまで擦り続けろ」 「ういっす」 「万が一、出ないのに萎えた場合には、ちょっと時間を置くといい」 「ういっす」 「とにかく頑張れ、何かあったら呼べ。大声で」 「ういっす」 じゃあ、と爽やかに手をあげて、大石はドアの外に再び出て行った。 「そんなこと言われても…」 越前は自分の盛り上がった股間を眺め下ろす。 はぁ、とため息をつくが、ペニスは痛いくらいに勃起しつづけている。 ずる、と短パンを下ろして、ベンチに腰掛け、また扱き始めた。 息が熱い。 頭がぼんやりする。 ペニスの先から透明な液体が出てくる。 そんな中、頭に浮かぶのは大石の顔。 大石の手。 大石の声。 「あ…おおいしせんぱい…」 小声でそっと囁く。 「お…いし…」 「しゅう…」 はぁ、はぁ、と息があがる。 股間のムズ痒さが増す。 強烈な尿意に似た快感。 「お…おおいしせんぱい!」 大きな声で呼ぶ。 「どうした、越前?」 ドアの外から呼びかける声。 その声を聞いて、越前は頂点が近いと感じた。 「おおいしせんぱい!おおいし…」 「越前?どうしたんだ?」 前の失態があるからか、大石はドアを開けずに外から声をかける。 「お…いし…」 「越前、大丈夫なのか?」 「ああっ…」 大石の自分を呼ぶ声で、越前は達した。 小さなペニスがぴくんと跳ね上がって、白い液体が勢いよく噴出した。 何度も、何度も吹き出して、自分の顔、胸、腹にかかった。 生暖かくて、苦い匂いのする白い精液。 「あ…大石先輩、どうしよう…」 越前はおろおろとした。 近くのティッシュを手にすることも忘れて、ただ呆然と手についた精液を眺めた。 「大石先輩、大石先輩!!どうしよう!」 とりあえず叫んだ。 「入るぞ?」 と声がして、大石はそろっとドアを開けた。 部室はむっとした匂いがした。 下半身丸出しで、あちこちに精液を飛び散らせて、顔からも垂れ下がった越前が 自分の手を見て、呆然とベンチに腰掛けていた。 「何を…越前…」 声をかけると、越前は少し泣きそうな顔をあげた。 「大石先輩、なんか…なんか出た…」 「ああ、大丈夫。大丈夫だから」 大石は越前のところに走りよって、傍らのティッシュをとりあげる。 「大丈夫だ。普通のことだから。大丈夫だ」 そう声をかけながら、越前の顔、手、胸、腹を拭いてやる。 それから床やベンチに飛び散った精液を拭き、ティッシュを越前に渡した。 「ほら、それは自分で拭いて」 「あ、はい」 越前は呆然としつつも、大石の手からティッシュを受取り、自分のペニスを拭いた。 大石は手際よくあちこちを拭いて、それから越前の手から取ったティッシュも 一まとめにして、ビニール袋に入れて口をしばる。 「ズボンはいて」 「あ、はい」 それから窓を一度全部開けて換気をした。 「何か飲み物を買ってくるよ。座ってて」 そう言って大石が出て行ってしまうと、越前は今自分のしたことをゆっくりと思い返した。 そして、大石の手、大石の声を思い出した。 「いちご牛乳な」 大石は笑って差し出す。 「ありがとうございます」 と受取って、ストローを出そうとするが、手が震えてうまくいかない。 「コツがあるんだろう?」 と笑いながらも、大石は越前の手からブリックパックを受取り、ストローを差して返す。 「びっくりしたか?」 「はい…」 「でもこれでやりかたが分かっただろう?」 「はい」 「じゃあ大丈夫だ。時々するといいよ」 「…」 「越前?」 黙りこくった越前の顔を大石は覗き込む。 「どうした、大丈夫か?」 越前は顔を上げる。 「大石先輩」 「うん」 「俺、大石先輩の声で出しました」 「ああ、それは…ごめん…」 「何で謝るんすか」 大石はまた少し暗い顔をする。 「男がらみでイくのはよくないからな」 「どうして」 「トラウマになる」 「大石先輩はそうだったんですか」 ストレートに聞いた。 逃げてはいけないと思った。 大石はまっすぐに越前を見る。 「ああ」 「教えて下さい」 「聞く必要はないよ、越前」 「どうして」 「聞く意味がないし、お前には関係ない」 お前、と言われたのは初めてだった。 いつでもこの柔和な先輩は人を名前で呼んだ。 「関係ないことはないっす。俺、大石先輩の声で出したんすから」 大石は冷たい目で越前を見据える。 「責任取れって言うのか?」 「別にそういうわけじゃないですけど」 でも、と越前は少しの恐怖に負けて目をそらす。 「でも俺、大石先輩のこと気になるし。それに…」 「それに?」 「それに…多分、大石先輩と俺のちんちんって何か縁がありそうな気がする」 うまく言えなかった。 ただ、そういう縁を感じた。 ふう、と大石はため息をつく。 「どうしてこんなことを話さなきゃいけないんだ」 そうして両手で頭を抱える。 「思い出したくもないのに、どうして」 そのまましばらく固まっていた。 越前は、それでも退かなかった。 知りたかった。 理由は分からないけれど、どうしても知りたかったのだ。 大石はぽつぽつと話し出す。 小学校6年の頃、塾からの帰り道、男に襲われたこと。 突然口を塞がれて、家の中に引き摺り込まれたこと。 何が起こっているのか全く分からなかったが、とにかくその男に ペニスを舐められて初めて射精したこと。 それから無理矢理犯されたこと。 どうしても人に言えなくて、それからもその男にしばらく抱かれていたこと。 半年ほどたったある日、その男が突然姿を消したこと。 「俺は強姦されてたんだよ」 大石は自虐的に笑う。 「なのに、そいつが姿を消した時、俺は泣いたんだ」 くっ、と口を手で覆う。 その手が塞き止めたのは、鳴咽なのか、嘔吐感なのか、越前には図りかねた。 「俺は…」 それから大石は黙ってしまった。 長い沈黙が続いた。 越前は大石の頬に手を伸ばした。 そうして彼の頭を胸に抱えた。 二人はしばらくそうしていた。 その日、二人は身体を重ねた。 汗臭い部室で、大石は越前を抱いた。 「ゆっくり息吐いて」 「そう、それでいい」 「越前、苦しくないか」 大石は巧みだった。 越前は大石の声を聞きながら達した。 「越前、後悔するぞ」 「しない」 越前はことが終わったあとで、大石の膝に座り、彼の頬を両手で挟み込んで言った。 「俺は後悔なんて絶対にしない。俺が選んだことだから」 「バカだな、越前」 大石は優しかった。 そうして二人はセックスを繰り返した。 大石は一度も自分を好きだと言わなかった。 ただ、いつでも優しくて、いつでも大事に越前を扱った。 俺は。 越前は振り返って思う。 きっとあの人の過去の姿と映ったのだろう。 だからあの人はいつでも優しかった。 自分がそうされたかったように、俺に接した。 あの人は俺を好きだったわけではない。 あの人は自慰をしていたに過ぎない。 ああ、だけど俺はあの人が好きなんだ。 |