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U ARE THE SEX MACHINE / EIJI-2
2年の夏休みのこと。 大石は珍しく、待ち合わせの時間に少し遅れてきた。 前の晩、手塚の家に泊めてもらったんだと笑った。 俺は少し怒った。 「だから一緒に帰ろうって言ったんだよ」 「うん、でも本が面白かったから」 「何もなかった?」 「何もって?」 その目が冷たかった。 俺は少し恥ずかしくなった。 自分が大石をそういう対象として見ているからと言って、 人もそうかと疑うのは、とても下世話なことだ。 「なんでもない」 「英二、今日は何を見にいくんだ?」 大石は微笑む。 いつもの優しい顔をする。 ふわ、と春の風が吹いた気がした。 夏の暑い暑い渋谷の、ド真ん中に、春の風が吹いた。 俺は少しくらくらした。 「うん、えっとね、今日は・・・大石?」 大石は目を見開いて、人ごみを見ていた。 驚いた顔で、少し青ざめて。 「大石、どうしたの?」 大石の見ている方向を見やる。 人の流れが赤信号で停滞していた。 すごい人ごみの中、大石は一点を驚愕の目つきで見ていた。 歩行者用の信号が青になり、人が流れ出す。 大石はその途端、走り出した。 「おおいし?」 俺はびっくりしてその後を追う。 大石は中年の男性の腕を後ろから乱暴につかんで振り向かせた。 「あ?なんだ?」 その男性はびっくりしたように振り返り、大石の顔を見た。 「貴方…」 大石の薄い唇が開く。 そのまま二人はしばらく見つめあっていた。 その中年の男性は、とても汚い奴だった。 髪もボサボサで、何日も風呂に入ってないみたいで、 汚いシワシワのジャージを着ていた。 しかも、そのジャージは上下違うものだった。 要するに、その男は路上生活者だった。 そして、格好の汚さは別としても、そいつは非常に不細工な男でもあった。 はれぼったい目、団子鼻、分厚い唇。 それらが奇妙な配置で顔面にぼてぼてとついていた。 本当にぼてぼてと。 大石の半開きの口から声が漏れる。 「俺のこと覚えてないか…あの…家で…」 その言葉を聴いた途端、その不細工な男は顔を真っ青にした。 そして自分の腕を掴んだ大石の手をふりほどき、 「あの小僧か…」 とうめくと、すごいスピードで走って逃げた。 「待って!」 大石は叫んだが、足は横断歩道の白線の上に 吸いつけられたかのように動かなかった。 信号が赤に変わっても、大石は動けなかった。 そして、男の走り去った方向を食い入るように見ていた。 車がクラクションを鳴らし、大石をせっつく。 それでも大石は動けなかった。 俺は走りよって、車の運転手に頭をぺこぺこ下げながら、 大石をひきずって歩道に連れて行く。 「大石、どうしたの」 大石は呆然と下を向いていた。 「大石…?」 大石の黒い目からぼとぼとと涙が落ちた。 一粒落ちたことが呼び水になったかのように、あとからあとから涙が落ちた。 「う…」 大石は崩れるように膝を折った。 熱いアスファルトに手をつき、膝をつき、涙をぼとぼとと流した。 「うううう…」 嗚咽が喉から搾り出されるように漏れる。 「大石、大石」 俺は大石の背中をさすった。 夏の暑い日のことだった。 終わりかけた夏が、最後の抵抗を見せたような暑い日のことだった。 夏が最後の力をふりしぼったような、そんなヤケクソ気味に暑い日のことだった。 それから、俺はもう買い物のことはそっちのけで、大石を何とか タクシーに乗せて、大石の家に戻った。 大石の部屋に連れて行き、ベッドに座らせて、自分も横に座って、大石を抱きしめた。 大石は泣いていた。 あれが何であったのかはわからないけれど、俺は聞いてはいけないと思った。 そして、何となく、俺が初めて大石と肌を合わせた時の事を思い出した。 大石は初めてじゃなかった。 明らかに経験をしていたし、それも1度や2度ではないと感じた。 それとこれとはきっと関係がある気がした。 あんな不細工な男と大石が、とは考えたくなかったけど、 それでもそんな気がした。 大石は俺の腕の中で震えて泣いた。 泣きじゃくる大石を、俺は抱いた。 「大石、俺がいるよ」 俺は大石の額を撫でて囁いた。 「俺がいるからね。大丈夫だよ、大石」 大石はセックスの間中、ずっと泣いていた。 嗚咽が口から漏れていた。 どういう形であれ、大石がセックスの最中に声を出したのは、 これが最初で最後だった。 俺の背中に爪の跡が残るほどしがみついて達したのも。 「う…うぁ…」 「大石、感じてる?」 俺は大石のアナルに指をつきたてて、大石の頬に反対側の手を伸ばす。 「大石、気持ちいいの?」 大石は綺麗だった。 眉をひそめて、口を半開きにして喘いでいた。 「あ、あああ…」 大石ががくがく震え始める。 緩急をつけて出し入れし、アナルの奥の方にある、大石が感じる ところを指の腹で押し上げる。 大石が感じるところは2箇所ある。 中指の根元までいっぱいに差し込まないと届かないような奥と、 あと入り口に近い、襞が沢山よっているところ。 前者は指やペニスで腹の方向に押し上げるのが好きで、後者はこするのが好きで、 指の関節がそこをぐぷ、と通る時に震える。 俺は大石の身体のことを、それくらいよく知ってる。 アナルは、入り口こそ襞が沢山寄っているけど、 少し中に入ると、つるつるになっている。 こんなにつるつるしているところは人間の身体にはない。 多分、俺たちの身体の中で、一番綺麗な皮膚なんだ。 大石の一番綺麗なところを、俺は知ってる。 「大石、イっていいよ。我慢しないで」 俺は少し乱暴なくらい指を動かしながらぐちゃぐちゃと出し入れした。 俺は大石に添い寝をする形で肘をついて横たわり、仰向けに寝た大石のアナルを 片手でいたぶって、もう片方を大石の頬にすべらせていた。 大石はふるふると震えて、俺にしがみついてきた。 「あああ…あ…うぁ…」 その姿がたまらなくいとおしかった。 まだぼろぼろ涙をこぼして、俺の胸に顔を寄せ、大石は俺にしがみついていた。 こんな姿を見せるのは初めてだった。 「あっ…あ、ああっ、あ…」 そうして、俺の腕の中でぴくぴく痙攣して、大石は達した。 俺の背中に爪をたてて。 痛いのが嬉しかった。 こんなに爪をたてるほど、大石が感じているのが嬉しかった。 達したあとも、ゆっくりと指を出し入れしながら、俺は大石の頬を大きく撫でる。 「ヨかった?」 大石は少し頬を赤らめていた。 こんなに可愛い顔をみせるのも初めてで、俺は胸がいっぱいになった。 それから俺たちは一つにつながって、セックスをした。 大石はいつも横に背ける顔を、その日は正面を向けていた。 いつもくいしばる歯を、その日は開けていた。 いつもシーツを握り締めている掌が、その日は俺の肩に食い込んでいた。 そうして大石は切ないような喘ぎ声を漏らし続けた。 「あ…ああ…う…」 俺は嬉しい反面、とても胸が痛んだ。 そして、さきほどの不細工な男の顔を思い出した。 あの男が大石をこうしたのかと思った。 あの男は大石のこんな顔を見ていたのかと思った。 あの男が大石をこんなに淫乱にしたのかと思った。 あの男は大石のこんな顔を見続けていたのかと思った。 こんないい声を出させていたのかと。 「大石」 俺は腰を動かしながら、大石の顔を両手で挟んだ。 「大石、俺がいるよ」 声には出さなかったけれど、俺は言いたかったんだ。 あんな男のことなんか忘れちゃって。 俺に夢中になって。 俺がいっぱいいっぱいしてあげるから。 俺が大石のこと、もっと気持ちよくしてあげるから。 大石のこと、もっともっと愛してあげるから。 大石は酸素の足りない魚のように喘いだ。 黒い瞳にいっぱいの涙が、目の端から枕へと垂れていた。 「ああ、あ。あ。」 声のトーンがあがっていく。 次第に高まっていくのを感じた。 大石は震え、そしてアナルが俺のペニスを断続的に締め付けだす。 「大石、一緒にいこ」 俺は大石のペニスを優しくさすった。 大石のペニスの先には透明な汁がぷっくりと水泡を作っていた。 それを親指の腹でぬぐいとり、自分の口に含む。 しょっぱくて、生臭い汁。 大石の汁。 少し甘い。 大石のペニスは俺のよりひとまわり大きい。 俺のはごく標準サイズだと思うので、大石は少し大きいのだと思う。 思えば、せっかくの大きなペニスを使わずに、俺の標準サイズを駆使して セックスしている俺たちは少しバカなのかも知れない。 大石の尻に自分の腰を強くうちつける。 俺のペニスは痛いくらいに勃起して、大石の感じるところを深くえぐる。 俺たちは鳴き声を発しながら同時に達した。 大石も俺も声を出していた。 「ああっ、あっ、ああああ…」 「大石、大石、イイよ、大石、ああ、出ちゃう。一緒にきて、大石、きて」 だけど、大石は俺の名を呼ばなかった。 最後に大石は「あなた」と、声を出さずに一言つぶやいた。 あなた、と。 名前も知らないの、あの男の。 ことを終えて、身を起こした大石は、もういつもの大石だった。 俺の顔を見て、自分の流した涙を手の甲でぬぐい、そしていつもの大石に戻った。 それから大石はまた二度と声を出さず、俺にしがみつくことはなかった。 |